supernova explosion 超新星爆発後3時間の混合の様子

星の進化と超新星爆発

 教養学部宇宙地球科学教室
 蜂巣 泉

 超新星爆発とは星の一生の最終段階に訪れる、星自身が吹っ飛んでしまうよ
うな大爆発現象のことをいう。この大爆発によって、それまで星の内部に蓄え
られていた、炭素、酸素、鉄など、ヘリウムより重い元素が大量に宇宙空間に
ばらまかれる。われわれの体をつくっている元素の大部分はこの超新星爆発に
よって供給されたものである。生命は超新星がなければ生まれてこなかったと
いう意味で、われわれ生命は超新星の賜物だともいえる。ここでは、現代天文
学が到達した超新星研究を紹介すると同時に、その中での日本の研究グループ
の貢献についても述べる。 
 一九八七年二月、マゼラン星雲で超新星が爆発した。一九八七Aと名付けら
れた、この超新星の出現後、超新星研究の様相が大きく変わった。その理由は、
ガンマ線、X線から赤外線、電波にいたる、あらゆる電磁波の波長帯での詳し
い観測がなされたからである。さらに、超新星爆発時に形成される中性子星か
らのニュートリノまで受かってしまった。超新星研究は、定性的な研究から定
量的な研究へ、いわば精密科学への領域に進んだともいえる。 
 X線での観測では当時打ち上げられて間もない日本の衛星「ぎんが」の活躍
が大きかったし、ニュートリノの観測では、岐阜の神岡にある「カミオカンデ」
が見事なデータを出した。一九八七Aの理論的な研究でも、東京大学の野本憲
一を中心とするグループが大活躍をする。 
 野本らがリードして、明らかにしていった超新星の具体的な姿をまとめると
次のようになる。爆発した星は、太陽の十六倍の質量。星の中心で水素が燃え
ヘリウムになり、ヘリウムが燃え炭素や酸素になり、炭素や酸素が燃えシリコ
ンになり、シリコンが燃え鉄になる、という核融合反応が進み、鉄のコアの質
量が太陽の一.六倍になったとき、鉄の光分解という現象が起きた。自分自身
の重力を支えきれなくなったコアは一挙に爆縮を起こして、中性子星のサイズ
まで縮む。この上に、降り注いできたガスが衝撃波とともに跳ね返され、星全
体を吹き飛ばす。 
 この超新星は、今までの超新星にはみられない不思議な振る舞いをした。そ
のひとつは可視光でみた明るさが暗かったこと。可視光での光度が何十日にも
わたって一定だったこと、などである。暗かったことは、爆発した星の半径が
小さいということが原因だった。衝撃波が星の表面まで伝わったとき、星が急
に明るくなるが、そのときの半径が大きければ大きいほど可視光でみた光度は
明るくなる。光度一定の時間が長く続いたことは、星の表面近くにある水素が
内部まで混ぜられていたとすれば説明できる。 
 実は、X線の観測からも爆発した殻(コアをのぞく外側の部分)の内部で大
規模な混合が起きていることが示唆されていた。超新星が爆発した直後から、
理論家たちは約1年後にはX線が観測されるはずだと、予言していた。この予
言の論文が雑誌に載るより前、爆発の百日後には、衛星「ぎんが」は超新星か
らのX線を受けていた。X線は超新星の爆発殻の一番内側にあるニッケル56と
いう放射性同位元素からでるガンマ線が物質と衝突しながらじわじわとエネル
ギーを減らし、X線として星の表面からでてくるのである。爆発殻の中で大規
模な物質混合が起きていれば、当然、でてくる時間は早くなる。 
 このことが判明してしてから、私も含めた世界のいくつかのグループが流体
力学的な計算にチャレンジし始めた。私の場合、野本らの提案したリアルなモ
デルを初期条件として使い、大規模な混合が爆発殻内部で起きていることを再
現できた。(スーパーコンピュータを数百時間動かした。)図はその結果を示
したものである。爆発直後、一番内側にあったニッケルやシリコンなどの密度
の高い部分が(明るい部分)が外側まで混ざっていることが示されている。星
の表面近くにあった、水素など軽い元素は内部に入り込んでいる。これらの様
相は、観測事実と驚くほどうまく対応していた。 
 超新星爆発へいたる星の進化を計算するのは実はそれほどたやすいことでは
ない。星が進化するにつれ、星の中心部と外縁部では十桁以上も密度や圧力な
どが変化する。その結果、熱伝導の時間スケールが星の内部と外縁部では何桁
も違ってくる。このような状況の下でも安定に数値計算を進めることができる
計算プログラムを初めて開発したのは、東京大学の杉本大一郎(現在総合文化
研究科広域科学専攻)であった。さらに、彼は当時彼の大学院生だった野本と
共同して、動的な時間スケールに関しても安定に計算できるプログラムを開発
する。この結果、数百万年の時間がかかる星の進化から、数ミリ秒で変化する
超新星爆発までをシームレスに取り扱えるコードができたのである。 
 一九八七Aは爆縮型の(後に中性子星を残す)超新星であるが、これ以外に、
炭素酸素コアの中心部に爆発的に火がつき、星全体が吹っ飛んでしまうタイプ
の超新星もある。こちらは連星系の中で起こる。一方の星が相手の星から、ガ
スを受け取って成長し、質量がある限界を超えると爆発するのである。このタ
イプの超新星の進化計算においてもっとも困難だったのはガスの降り積もりを
どう計算するかということであった。まともにラグランジュ法で取り扱うと計
算時間が膨大にかかりすぎるのである。ここでも、杉本は一種オイラー的とも
いえるハイブリッドな方法を考案し、計算時間の劇的な短縮に成功した。 
 杉本、野本らのグループは、その後十年近くにわたって、超新星へいたる星
の進化計算の分野で世界をリードし続けることができた。杉本、野本の両氏は
今年六月、星の進化と超新星の理論的な研究の成果を認められて、学士院賞を
受賞された。一九八七Aに代表される超新星研究の成功と発展をみるとき、両
氏の受賞は非常に時宜をえたものと思われる。心より祝福したい。(なお、駒
場の教員の学士院賞の受賞は十年ぶりだそうである。)