Ia型超新星爆発までの道すじ

  東京大学総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系 蜂巣 泉

宇宙膨張の加速

 1998年から1999年にかけて、「宇宙膨張が加速している」という思いがけない 事実が明らかになりました。宇宙は、ビッグバンで膨張をはじめますが、宇宙 の中に存在する物質の重力に引かれて、その膨張速度は次第に減速するだろうと 考えられていました。この物理学者の常識が大きく覆ってしまったのです。

 この「宇宙膨張の加速」という事実の解明の元になったのが、Ia型超新星の 観測的な研究です。Ia型超新星とは星がこっぱみじんに爆発すると同時に銀河と 同じくらい明るく輝く現象です。宇宙膨張の様子を知るためには、深宇宙にある 天体までの距離と、その天体の後退速度を測る必要があります。後退速度は、 原子が出す輝線などのドップラー効果を測定することにより求まります。ところが、 天体までの距離の決定には、多くの困難があってなかなか精度が出ませんでした。 この困難をIa型超新星がうまく打ち破ったのです。

 「宇宙膨張の加速」を明らかにして、大きな脚光をあびたIa型超新星ですが、 今まで、どのような星が爆発するのか、という肝心な点が判明していませ んでした。ここでは、私たちが明らかにした、爆発までの道すじをご紹介します。

連星系の進化

 太陽のように単独で存在する恒星は、その持って生まれた質量の大きさで、 一生はほぼ決まってしまいます。太陽は約50億年後、水素から成る外層を恒星風と して放出し、最終的に炭素・酸素などから成る中心核を残します。この中心核の 質量は太陽質量の6割ほど、その半径は地球より若干大きい程度です。したがって、 密度は非常に大きく、1 cc で何トンにもなります。この死に絶えた星は 白色矮星と呼ばれています。単独であれば、このまま終ってしまう白色矮星も、 相手がある連星系ともなれば、相手の星からガスをもらうことによって、再び 生き返ります。

 お互いに相手の星の周りを回っている二つの星の系を連星系とよび、 ガスをやりとりする連星系は、非常に複雑なプロセスを経て、X線星などの種々の 活動的な天体をつくり出します。単独星の進化がその初期質量だけで決まってしま う単純さとはかけ離れた世界です。この複雑な連星系の進化過程を経て、 Ia型超新星は爆発するのです。その複雑さゆえに、最近までその進化の道すじが 解明されずにきたのです。

 星の進化の最終状態の白色矮星は、電子の縮退圧で支えられていますが、 チャンドラセカール限界質量という質量の上限が存在します。その値は太陽のほぼ 1.4倍程度です。これを超えて相手の星からのガスが積もった場合には、縮退圧では 支えきれず、星はつぶれはじめます。その時、中心の炭素に火がつき、激しく燃え、 核融合反応の結果出て来るエネルギーが星の結合(重力)エネルギーよりも大きく なるために、星全体が吹きとびます。これが、Ia型超新星になると予想されています。

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コモンエンベロープ vs. アクリーションウィンド

 私たちが理論的に解明した、Ia型超新星の進化の道すじのひとつを 図1に示します。この進化の道すじの中で、重要なプロセスが二つあります。 ひとつはコモンエンベロープ(共通外層)進化プロセスです。他のひとつは、 アクリーションウィンド(質量降着恒星風)進化プロセスです。共通外層進化とは、 連星系中の一方の星が進化し、次第に外層が膨れて、相手の星を飲みこんでしまう ような時に起こる現象で、互いにその周りを回り合う二つの天体とそれを覆う外層 のガスの間で摩擦がはたらき、外層が全部吹き飛ばされてしまうと同時に、ガスが 角運動量を持ち去った反作用として、連星系はその距離を大きく縮めます。 ある場合は、近づきすぎて連星系の二つの星が合体してしまうようなことも起こり ます。共通外層進化が起こると、星の外層のガスが吹き飛ばされてしまうため、 白色矮星へはこれ以降、ガスが積もりません。

 これに対して、質量降着恒星風進化は、白色矮星へ降って来たガスが核融合反応 を起こしてたくさんのエネルギーを出すために温度が上昇し、光子の圧力で、 白色矮星のまわりのガスを高速に吹き飛ばすために起きる現象です。白色矮星から、 恒星風とよばれる質量放出が起こります。この恒星風が吹きはじめると、ガスの 速度が大きいため、軌道運動と相互作用する時間が無く、そのため、ガスが持って 出る角運動量は大きくなりません。したがって、連星系の軌道は縮まず、 その姿をそのまま維持します。白色矮星は、相手の星からひきつづき水素 ガスを受け取り、その一部を燃やして、ヘリウムに換え、残りは恒星風として外に 飛ばすことができます。このようにして、白色矮星はその質量を次第に増やし、 チャンドラセカール限界質量に達し、Ia型超新星として爆発できるのです。

 この質量降着恒星風進化は、1996年に私たちがはじめて理論的に明らかにした 現象であると同時に、Ia型超新星爆発への新たな道も開いたのでした。

Ia型超新星爆発直前の星

 私たちの進化の道すじを実証するためには、その対応天体を同定しなければ なりません。1996年から1999年にかけて、図1のような進化の道すじを提案した 後、私たちは、この進化の道すじに対応する実際の天体を探すことに 熱中しました。そして、進化のいくつかの段階に対応する天体をみつける ことができたのです。まず最初に紹介するのは、大マゼラン雲にある超軟X線源 RX J0513.9-6951 です。この天体は、今まさに質量降着恒星風を吹かしている 天体です。その後の私たちの理論的研究によって恒星風は間欠泉的に吹いたり、 止んだりすることが分かりました。私たちの理論的モデルが、このオン・オフの サイクルを図2のようにうまく再現しています。

 Ia型超新星爆発の直前にあると思われる非常に重要な天体を同定することも できています。「さそり」座のU星は、10年に一度、新星爆発(星の表面のみが 爆発する)を起こす、回帰新星として知られていた天体です。私たちが対応天体の 同定を始めていた1999年にちょうど新星爆発を起こしました。非常に詳しい 明るさの時間変化(光度曲線)がはじめて観測され、私たちの爆発のモデル計算と 合わせてみたところ、白色矮星の質量が太陽の1.37倍という値が求まりました。 白色矮星が太陽質量の1.38倍まで太ると、Ia型超新星として爆発することが 理論的に分かっているので、まさに、爆発直前の天体を見つけたことになります。

 私たちが理論的に予測した進化経路に、実際の対応天体を見つけることができた ことは、理論天文学者としての大きな喜びでした。私たちの理論がほぼ確定したの です。

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