古典新星の理論:
いつ超軟X線が出るか、予測できるか?
絶対光度は決められるか?

蜂巣 泉 (東京大学総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系:教養学部宇宙地球科学教室)
加藤 万里子 (慶大)


1. はじめに

古典新星は、白色矮星上に積もった水素が不安定核融合反応を起こすことに より起こります。爆発初期には、光球が巨星くらいの大きさまで膨れますが、 しばらくたつと質量放出により、ガスが飛んでいき、光球が小さくなる ため、光球半径は白色矮星とほぼ同じくらいまでに縮みます。この時期になると、 光球温度は数十万度にまで上がり、主な放射エネルギーが超軟X線の領域に きます(つまり可視光では暗くなる)。この時期を超軟X線期 (supersoft X-ray phase)と呼びます。 この超軟X線期を観測することで、白色矮星の質量など、古典新星のいろいろな 物理量を推定することが可能になり、古典新星を研究する上で非常に役に たちます。

新星が爆発してからX線を出すようになるまでの時間は、新星ごとにさまざまです。 (白色矮星の質量などにより大きく違うため)。ふつうX線天文衛星は、新星を毎日 みているわけではありません。X線観測のプロポーザルがせっかく受理されても、 よほどの幸運に恵まれないと新星がX線を出す時期にあわないと検出できず、 なかなか難しい面がありました。

最近では、X線衛星 Swift が大活躍し、多くの古典新星で超軟X線が検出されて います。しかし、機動性のある Swift でも、いつもいつも古典新星 を見張っていることはできません。新星から超軟X線が出る期間がいつ始まって、 いつ終るのかを、前もっておおまかにでも予測できれば、貴重なX線衛星の観測時間を 有効に使うことにもつながります。 そこでこの超軟X線期間を予測する簡単な式をつくり、論文(ApJ, in press, arXiv:0912.1136)を書きました。

この論文は最初、短い4ページの Letter 論文として投稿したのですが、査読者 (レフェリー)が論拠不十分だとして、いろいろ要求してきました。レフェリーの中には とんでもない主張をする人もめずらしくありませんが、この人はまともだったので、 ちゃんと質問に答えていたら、また質問がきて、、、ということで、 最終的に10倍の長さになってしまいした(ひえー、論文掲載料がぁ。。ApJは来年から 値上げだし。。円高を祈ります)。 あまりに長いので、ここでは、それらを分かりやすく、コンパクトにまとめることに しました。

レフェリーとのやりとりの期間中、いろいろ考えていたら、新たな進展が ありました (で、さらに論文が長くなった)。 それは古典新星の絶対光度を求めることです。これまで私たちの理論では、 可視光の光度曲線は計算できても、絶対光度がわからなかったのですが、 それを決めることができました。 その結果、50年前から知られていた、極大光度と減光率の観測的経験則 (Maximum Magnitude vs. Rate of Decline,英語で略して、MMRD関係と言います)を 理論的に求めることができました (これは理論の分野ではけっこうな快挙だと思う)。 また、極大から15日後の絶対等級もほぼ同じになるという経験則も、近似的に 求めることができました。 いままでの仕事と合わせると、これで新星の観測的な性質は、かなりの部分が、 理論的に説明ができたと思っています。

超軟X線期間が検出された古典新星の数: ここ最近の Swift による急激な検出数の増加がはっきりしています。

下の図の拡大図


図1. 超軟X線期間が検出された古典新星の年ごとの数。X線衛星の名前の 後に括弧であるのは検出数。

新星爆発とは?
新星は白色矮星とふつうの星(伴星)の連星系で起こります。伴星から水素ガスが 白色矮星の表面にふりそそぎ、積もった水素ガスがある量を超えると、突然、 水素の核爆発(核融合反応)が起こります。短い時間に大量のエネルギーが出るので、 星は突然明るくなり、新星として観測されます。このとき白色矮星の上にたまった 水素ガスは大きく膨らみ、加速されて放出されます。ガスがほとんど飛んでしまうと、 水素核燃焼も終って、星は暗くなり、もとの状態にもどります。明るくなってから 暗くなるまでは数ヵ月〜数年です。星が急に明るくなる現象は、むかしはみな 「新星」とひとまとめに呼んでいましたが、その後いろいろな現象が見つかってきた ので、「新星」から「超新星」や「矮新星」「回帰新星」などを分離し、残りを、 「古典新星」と名付けて区別しています。(コカ・コーラ・クラシックみたいなもの)

古典新星の爆発後の進化の概念図(下)。
爆発直後にはガスが大きく膨らむが、質量放出で出て行くためにガスが薄くなるので、 光球半径は時間とともに次第に縮んで行く。質量放出(新星風)がやんだ時点では、 光球温度は数十万度に上昇しているので、超軟X線期がはじまる。 白色矮星表面上の水素殻燃焼がやむと、超軟X線期も終る。

下の図の拡大図


図2. 古典新星の爆発後の進化の概念図。

図2の古典新星の時間変化とともに主な放射エネルギー の波長領域が変化していきます(下図)。
爆発直後は、光球が大きく膨らんでいるので、主に可視光(optical: OPT) の領域で明るく、次第に温度の上昇とともに、紫外(UV)、 そして最後は、超軟X線(supersoft X-ray: SSX)になります。

下の図の拡大図


図3. 回帰新星 U Sco の 2010年爆発時の光度曲線の変化。モデルは1.37倍太陽質量の 白色矮星の例。Optical と X-ray のバンドを示す。

どうして今まで超軟X線期の予測が なかったの?
これまで超軟X線期が観測された古典新星はそれほど多くありませんでした (図1を参照)。せっかく衛星で観測しても、検出できなかったことも多く、 それで、超軟X線期があるものは数が少なく、特別な条件を 満たす新星だけが超軟X線期を持つと考えられていた時期もありました (これって、 観測屋さんの居直りだと思ってました:MK)。すべての新星がX線をだすわけでは ないということであれば、超軟X線期を 予報することは意味のあることではないことになります。 この状況が変化したのは、Swift により、多くの古典新星で超軟X線期が観測 されるようになり、どの古典新星にも超軟X線期があるのだと広く考えられる ようになったことがきっかけです。もし、どの古典新星にも超軟X線期があるので あれば、わたしどもの理論からその期間が予測できるはずです。これが、この 論文を書く きっかけともなりました。

古典新星の時間変化(タイムスケール)は白色矮星質量に 大きく依存します。
図3の例は、1倍太陽質量の場合です。ほぼ1年ほどのタイムスケールで 変化します。つまり数ヵ月で可視光は暗くなり、そのうち紫外線で明るくなり、 また数ヵ月待っていれば、超軟X線で検出できるようになります。
でももし、白色矮星の明るさがもっと重くて、1.3倍太陽質量くらいだと、この 期間は短くて、1ヵ月ですべてが終ってしまいます。逆に軽くて 0.6倍太陽質量 くらいだと、X線が検出できる時期は数年から10年に延びます。X線が出るかでるかと 毎日チェックしているのに10年も待っていられないって?そりゃそうですよね。 観測計画がたてられません。(だいいちX線衛星が死んじゃう!) だから予測できれば便利でしょ。 新星が爆発してからX線が出るまでに間があるので、あらかじめ、可視光の減光の 速さから予測できれば便利ですよー。

2. どのようにして予測するの?

どうしたら予測できるの?
(てっとり早く答えが知りたい人は、図7の下に出てくる式を見てください。それが答です)

ここではあまり難しく考えずに、t3 時間とt(X-on)、t(X-off)の経験式を求めます ここでは超軟X線期が始まる時間は t(X-on)=t(wind)、 および超軟X線期が終る時間は t(X-off)=t(H-burning) と書きます。 あとで理論的な考察がでてきますが、ここでの結果が 理論的な計算と良く一致すれば、それを採用しようとする戦略です。

t3 時間とは?
t3 時間とは、古典新星の光度が速く減光するかゆっくり減光するかを示す尺度で、 光度曲線の極大から3等減光するのにかかる時間です。 早い新星はt3時間が小さく(2日とか7日とか)、遅い新星では(20日や40日と いうように)大きくなります。

下の図の拡大図


図4. t3 時間: 光度曲線の極大から3等減光するのにかかる時間。

t(X-on)=t(wind) 時間と t(X-off)=t(H-burning) 時間
超軟X線期間のはじまりは、新星風がやむ時間 t(wind) とほぼ同じと 考えられます。同じように、超軟X線期間のおわる時間は、水素殻燃焼の やむ時間 t(H-burning) とほぼ同じとして良いでしょう(水素燃焼が終ると暗く なるので、超軟X線も出なくなる)。これらは、 X線フラックスの変化から、観測的にも推定できます。ここでは、 私たちのモデルを使ったフィッテイングから決定することにします。 その1例を以下に示します。

下の図の拡大図


図5. t(X-on)=t(wind) 時間と t(X-off)=t(H-burning) 時間をモデル フィッテイングから決める。

下の図の拡大図


図6. 個々の古典新星について t3 時間の分布を t(wind) 時間に 対してプロットしたもの。バラついてはいるが、傾向はみて取れる。赤の 実線と破線は、t3 時間についての経験式に対応したもの。青はt2 時間に ついての経験式に対応。経験式から大きくずれている新星については、 色をつけてある。それぞれにずれる理由がある。たとえば、V2361 Cyg は ダストが形成されて、光が吸収され、光度曲線が急激に暗くなる、など である。

下の図の拡大図


図7. こちらも個々の古典新星について t3 時間の分布を t(H-burning) 時間に対してプロットしたもの。バラついてはいるが、こちらも傾向はみて取れる。 赤/青の実線と破線は、経験式に対応したもの。

予報式を経験式から導き出しました。
上の図のようにたくさんの新星について、t2 とt3、t(wind)、 t(H-burning)を調べ、 図のような直線をひいて、3つの経験式を導き出しました。この式は、t3 時間が わかればt(wind)と t(H-burning)がわかる、という式です。つまり新星が爆発して 初期の可視光の観測からt3 が求められれば、超軟X線期間を予想できる ことになります。

(なに?上の図では、観測値がバラバラで、赤や青の線からずれてるから、この式は信用 できないって?でも以下のように工夫するときれいに乗りますので、ご心配なく。 下の図を見てね)

これらは、下記の t3 時間の範囲でおおざっぱに成立すると思われます。

そのまんまの t3 時間は予報をあやうくする?
ところが、測光した光度曲線をそのまま使用して、裸の t3 時間を求めると、 予報が大きくずれることがあります。その理由は、いろいろな状況で、 光度曲線がガタガタしたり、パルスが出たり、振動したり、と素直に t3 が求まらないことが原因です。また、上記の v382 Vel 1999 のように 比較的素直なタイプの光度曲線でも、測定する人によって、値が結構大きく ずれる場合もあります。

理論光度曲線に沿って t3 時間を決める。
ここは大胆に、図5に示すように、可視光(赤外)の光度曲線に、私たちの 理論光度曲線をフィッテイングして、このフィッテイングした 理論光度曲線に沿って t3 時間を求めるようにしました。そうすると、 下図に示すように、観測と経験式が非常に良く一致します。 これで、新しい新星が出た場合に、いつ超軟X線期が始まり、また終るのか の予報がそれなりの精度でできることになりました。

下の図の拡大図


図8. 3本の経験式と個々の古典新星の観測結果。

(どうです?青と緑の線にちゃんと乗っているでしょ。手品みたいですねー。実際にちゃんと 合わせるには、t3を求める時にテクニックが要るんです。新星は実際の現象としてはいろいろ 複雑で、いちがん本質的な光度曲線が、副次的な現象のために隠されてしまっていることが あるので、難しいんです。
それでも線に乗らない場合があるんですが、それは本質的にバラバラしているという 理由があります。以下参照)

3. 古典新星の普遍的減光則

古典新星の光度曲線モデル
ここで、上記のフィッテイングに使った、理論光度曲線の詳細について 述べておきます。

古典新星の光学および近赤外の光度曲線は新星風の光学的に薄いプラズマからの 自由-自由遷移放射光(free-free emission)を計算することで良く近似できます。 蜂巣と加藤の新星風モデル(ApJS, 167, pp.59-80, 2006)で計算した光度曲線 の例を下図に示します。

下の図の拡大図


図9. 古典新星の爆発時の外層モデル: 光学および赤外のフラックスは 光球の外の光学的に薄いプラズマの領域からの自由-自由遷移放射光から 計算する。

古典新星の光度曲線のタイムスケールは白色矮星質量に 依存する。
ここでは、白色矮星質量が 0.55倍太陽質量から1.2倍太陽質量まで0.05倍 太陽質量ずつ増やしていった場合の光度曲線をプロットしています。1ヵ月 程度から数年まで、タイムスケールは大きく変化しています。

下の図の拡大図


図10. 古典新星の光度曲線のタイムスケールは白色矮星質量に依存する。

光度曲線は相似形(スケールフリー)
ところが、この光度曲線は、時間方向に引き延ばしたり、圧縮したりすると、 お互いに重なりあいます。要するに、タイムスケール因子(time-scaling factor) で割算すると、同じ曲線になってしまうという、スケールフリーな性質をもって います。(図11参照。)

いま、タイムスケール因子を fs とすると、

の関係を使って、ダッシュのついた時間に変換すると、 1本の光度曲線がすべての古典新星の光度曲線を表しているという ウソのような話になります。逆に、このスケールフリーな光度曲線の どの点でもいいのですが、その時間を指定すると、他の時間はすべて 自動的に決まってしまうという性質です。ですので、例えば、 t3 時間を決めれば、 他のタイムスケールもいっきに決まってしまうということになります。 これが、t3時間から超軟X線期を予報できる理論的な基礎です。

下の図の拡大図


図11. 古典新星の理論光度曲線はスケールフリーな形をしている。 図10の白色矮星質量が 0.55倍太陽質量から1.2倍太陽質量まで光度曲線が、 この図のように、すべて1本の線に重なりあってしまいます。この1本の 基本的な光度曲線を、私たちは古典新星の「普遍的減光則 (universal decline law)」と呼んでいます。

上記の 0.55倍太陽質量から1.2倍太陽質量までの白色矮星の光度曲線を、 横軸を経過日数の対数であらわすと、図12になり、 全体の様子がよく分かります。

下の図の拡大図


図12. 横軸を経過日数の対数にすると理論光度曲線のスケールフリーな形が よくわかる。

図12よりわかるのは、ひとつのタイムスケールが分かれば、他の タイムスケールもすべて分かる、ということです。これをスケーリング則 といいます。例えば、図12で、t3 時間が分かれば、比例関係を使って、 t_{wind} 時間も分かります。つまり、

の関係を使って、ダッシュのついた時間から、実際の時間に変換する ことができます。ここで、V1668 Cyg に対する 0.95太陽質量の白色矮星 のフィティングの値、t'2=14.4 日、t'3=26 日、t'_{break}=100 日、 t'_{wind}=280 日 (下のテーブル参照)などが目安です。 このようにして求めた、いろいろなタイムスケールの間の関係式と、 超軟X線の予報式はよく合っています。(というより、むしろ、 スケーリング則の関係式から予報式を出した、というのが本当の ところです。)

4. 絶対光度とMMRD関係を出す

ここで、重なり合った光度曲線をもとの絶対光度に戻すには 時間を伸ばしてやればよい。しかし、時間を圧縮して同じ明るさなら、 時間を伸ばせばその分だけ暗くなる。スケーリングファクター fs の ぶんだけ、暗くなる。スケーリングよって時間微分が

となるのでフラックスは

となる。ここで、ダッシュ(プライム, prime)のついた量は各光度曲線が 重なった場合の量をあらわす。νは振動数、 ダッシュのついていないものは、もとの タイムスケールに戻した場合の量をあらわします。 これでフラックスの関係が分かったので、等級に直すと、

となる。このダッシュのついた等級が図11と12の縦軸です。 fs は分かっている数なので、これで明るさをもとに戻せます。 ただ、絶対等級を求めるには、基準となる明るさが必要となりますので、 ここでは、V1668 Cyg (Nova Cygni 1978) を使うことにします。 V1668 Cyg の距離指数(distance modulus)は、 距離が d=4.1 kpc で、V等級での 吸収が A_V=3.1 x E(B-V)= 3.1 x 0.4=1.24 であることより、

となります。(図13の中に表示してあります。)

この値を使って、絶対等級を復元するには、

を使い、図12より求めます。

上記の白色矮星質量が 0.55倍太陽質量から1.2倍太陽質量まで光度曲線が、 下図のように、元来の明るさに戻ります。ここで、V1668 Cyg の白色矮星が 0.95太陽質量であるとしています。古典新星の極大から15日後の絶対等級が どの新星でも、あまり違わず、だいたい -5.3 から -6.0 程度になる、という 経験則が知られています。これを M_V(15) とあらわしますが、それが 私たちの光度曲線でもそうであるかどうか、調べてみました。青い丸印が 極大光度の時間とすると、青い十字印がそれから15日後の明るさを示して います。0.65から1.05太陽質量までの平均をとると、図中の値となります。 ほぼ、経験則を再現しているようです。

下の図の拡大図


図13. 絶対光度にもどす。青線が1.0、赤線が0.95、緑線が0.9 太陽質量の 白色矮星。

このようにして求めた各光度曲線が実際に新星の絶対等級を求めるのに 使えるのかを確かめてみます。 下の図14には、二つの新星 GK Per (Nova Persii 1901)と V1500 Cyg (Nova Cygni 1975)の光度曲線が表示してあります。GK Per は 距離指数が9.2 (d=0.455 kpc, A_V=0.9)ですが、私たちの絶対光度が分かった 光度曲線のフィットからは、距離指数が 9.3 となります。0.1等の差(ほぼ合っています)です。 V1500 Cyg の距離指数は、12.5 (d= 1.5 kpc, A_V=1.6) ですが、 私たちの光度曲線フィットからは、距離指数が 12.5 (V1668 Cyg を基準とした場合)と なって、これも良く合います。ここで、GK Per と V1500 Cyg の実際の距離は、 新星の爆発殻が広がった大きさとその膨張速度から求めています。

下の図の拡大図


図14. 二つの古典新星(GK Per と V1500 Cyg)の光度曲線と 私たちの理論光度曲線の絶対光度の比較。

理論光度曲線の絶対光度が分かったので、極大光度とt3時間の関係を 理論的に求めることができます。その関係を示したものが下の図15です。 図中の3点、A, B, C が図11の中の3点、A, B, C に対応しています。 同じ 0.95 太陽質量の白色矮星でも、新星爆発時の水素外層(エンベロープ) 質量が違うと、明るさも違います。A点での水素外層の質量がもっとも大きく、 B点、C点と次第に小さくなっていきます。これは、爆発後の水素外層が 新星風のために吹き飛ばされて、しだいに小さくなっていくことと同じです。 ですので、水素外層質量が大きいほど、極大は明るくなります。 それに応じて、t3時間も短くなるので、 極大光度とt3時間の関係は、図15のA点からB点を経て、C点になるように (緑色の実線に沿って)変化していきます。

下の図の拡大図


図15. t3時間と極大光度(絶対等級)との関係。水素外層の化学組成に よって、吸収係数と核反応率が変わるので、極大光度と減光率の関係も かわる。緑と青の白色矮星質量は、化学組成の違いをあらわす。

これとは別に、 図11中のB点から出発するすべての光度曲線(白色矮星質量は違います) はタイムスケーリングファクターの fs が違うだけなので、 図15の点Bを通って、傾きマイナス 2.5 の直線(黒い実線)で表される 関係になります。実は、この関係が昔から言われている、経験式と 非常に良く合います。青い実線は、Kaler-Schmidt 則で、マゼンタ色の 実線は、Della Valle-Livio の経験則です。 赤い中が詰まった丸は、Downes & Duerbeck が求めた、たくさんの新星の t3 と極大光度の値です。これをみると、MMRD関係の メイン・パラメータは、白色矮星質量(タイムスケーリングファクターの fs)ですが、爆発時の水素外層質量の違いが、セカンド・パラメータと なって、メインの関係式のまわりにばらつきをつくり出しているのが よくわかります。

実際に、図15の横軸と縦軸の式から log fs を消去し、見かけの 等級と絶対等級を距離指数を使って変換すると、

となります。この関係を使って、ダッシュのついた量を、 図11および12のB点(V1668 Cyg に対応)の値、 m'_V(max)=6.2 等、t'3=26 日、(m-M)_V= 14.3 を入れると、

となります。この関係式が図15の太い黒実線に対応します。 V1668 Cyg は平均的な(典型的な)古典新星だということになります。

一般に、白色矮星への質量降着率が大きいと、新星爆発時の水素外層 の質量は小さくなります。ですので、同じ白色矮星質量でも、質量降着率の 違いで、新星の極大時の明るさがことなります。質量降着率が小さいと、 新星の極大は明るくなり(図11のA点などに対応)、 大きいと暗くなります(図11のC点などに対応)。この関係は、回帰新星 RS Oph の図15中の位置を見ると、よく理解できます。回帰新星は、 白色矮星質量が大きく(チャンドラセカール限界質量に近い)、質量降着率が 大きいので、図15では、メインの関係式(黒い太い実線: これは平均的な新星の関係を あらわします)と比べると、極大が、かなり暗くなっています。それと ともに、白色矮星質量が大きい領域に来ています。

5. 個々の新星について-- 超軟X線期が検出された10個の古典新星

さてそれでは、実際に超軟X線が観測された10個の古典新星について、 光度曲線フィッテイングをみていきましょう。こうして並べると、これでもか、 これでもか、という感じですね (これでレフェリーは何も言えないだろうって)。 誰がこんな長い論文を読むのかって思いますが、たぶん自分の観測した新星をさがして そこは見てくれるのではないかと。。。
これらの10個の新星は、 t3 の小さい順(光度曲線が早い順)に並べてあるので、 爆発した年はばらばらです。

V598 Pup 2007 No.2
この古典新星は、XMM-Newton の slue survey によって偶然に発見されました (Read et al. 2008, A&Ap, 482, L1)。そのため、初期の光学測光観測は、 All Sky Automated Survey (ASAS) (Pojmanski et al. 2007, IAU Circ., 8899) のものしかありません。可視およびX線の光度曲線フィットによると、 白色矮星質量はだいたい 1.28 太陽質量で、t3 は 8.7 日となります。

下の図の拡大図


図16. V598 Pup 2007 No.2 の光度曲線。左側の目盛は等級、右側の 目盛はX線のフラックスを表示。理論光度曲線に沿って測った t3 は 8.7 日。 後半の可視の光度曲線は、V1500 Cyg (Nova Cygni 1975) に良く似ているので、 このデータもあわせて表示している。

V382 Vel 1999
可視および近赤外の観測と、理論光度曲線のフィットはかなり良い。 可視およびX線の光度曲線フィットによると、 白色矮星質量はだいたい 1.23 太陽質量で、t3 は 11.8 日となります。 30日を過ぎたあたりから、理論光度曲線(普遍的減光則)からずれて くるのは、星雲期(nebular phase)に入り、強い輝線の影響があらわれる ため。

下の図の拡大図


図17. V382 Vel 1999 の光度曲線。t3 は 11.8 日。比較のために、 V1500 Cyg (Nova Cygni 1975) の測光データもあわせて表示。

V4743 Sgr 2002 No.3
この古典新星も、可視および近赤外の観測と、理論光度曲線のフィットは かなり良い。この可視およびX線の光度曲線フィットによると、 白色矮星質量はだいたい 1.15 太陽質量で、t3 は 17 日となります。 30日を過ぎたあたりから、理論光度曲線(普遍的減光則)からずれて くるのは、星雲期(nebular phase)に入り、強い輝線の影響があらわれる ため。

下の図の拡大図


図18. V4743 Sgr 2002 No.3 の光度曲線。t3 は 17 日。比較のために、 V1500 Cyg (Nova Cygni 1975) の測光データもあわせて表示。

V1281 Sco 2007 No.2
この古典新星は、可視とXのみの観測で、かつ観測点がばらついている。 理論光度曲線は観測点の下側に合わせるようにフィットした。 この可視およびX線の光度曲線フィットによると、 白色矮星質量はだいたい 1.13 太陽質量で、t3 は 17 日となります。 超軟X線のフィットは、最後の観測点がX線の減衰のはじまりだとした。

下の図の拡大図


図19. V1281 Sco 2007 No.2 の光度曲線。t3 は 17 日。比較のために、 V1500 Cyg (Nova Cygni 1975) の測光データもあわせて表示。

V597 Pup 2007 No.1
この古典新星は、可視とXのみの観測。 理論光度曲線は観測点の下側に合わせるようにフィットした。 この可視およびX線の光度曲線フィットによると、V1500 Cyg の光度曲線に 良く似ている。白色矮星質量はだいたい 1.2 太陽質量で、t3 は 17 日。 超軟X線のフィットは、幅広いのが特徴。

下の図の拡大図


図20. V597 Pup 2007 No.1 の光度曲線。t3 は 17 日。比較のために、 V1500 Cyg (Nova Cygni 1975) の測光データもあわせて表示。

V1494 Aql 1999 No.2
みてのとおり、可視および近赤外の観測と、理論光度曲線のフィットは あまり良くない。かなり早い時期から、光度曲線に振動のようなものが あらわれ、後半になると、transition oscillation とよばれる、振動が つけ加わっている。ここでは、データの bottom line (底をつなげた接線) に理論光度曲線をフィットさせている。 この可視およびX線の光度曲線フィットによると、 白色矮星質量はだいたい 1.06 太陽質量で、t3 は 22日となります。

下の図の拡大図


図21. V1494 Aql 1999 No.2 の光度曲線。t3 は 22 日。比較のために、 V1974 Cyg (Nova Cygni 1992) の測光データもあわせて表示。

V2467 Cyg 2007
ごく初期に明るい時期があり、10日ころに一度光度が落ちているように 見える。後半は、transition oscillation とよばれる振動がのっている。 これも、データの bottom line (底をつなげた接線)に理論光度曲線を フィットさせて、白色矮星質量は 1.04 太陽質量で、t3 は 28 日となる。

下の図の拡大図


図22. V2467 Cyg 2007 の光度曲線。t3 は 28 日。比較のために、 V1974 Cyg (Nova Cygni 1992) の測光データもあわせて表示。

V5116 Sgr 2005 No.2
この古典新星は、可視および近赤外の観測と、理論光度曲線のフィットは かなり良い。この可視およびX線の光度曲線フィットによると、 白色矮星質量はだいたい 1.07 太陽質量で、t3 は 30 日となります。

下の図の拡大図


図23. V5116 Sgr 2005 No.2 の光度曲線。t3 は 30 日。比較のために、 V1974 Cyg (Nova Cygni 1992) の測光データもあわせて表示。

V574 Pup 2004
この古典新星も、可視および近赤外の観測と、理論光度曲線のフィットは かなり良い。この可視およびX線の光度曲線フィットによると、 白色矮星質量はだいたい 1.05 太陽質量で、t3 は 35 日となります。

下の図の拡大図


図24. V574 Pup 2004 の光度曲線。t3 は 35 日。比較のために、 V1974 Cyg (Nova Cygni 1992) の測光データもあわせて表示。

V458 Vul 2007
みてのとおり、初期に3つの2等ほどの大きなパルスが光度曲線にのっている。 ここでは、データの bottom line (底をつなげた接線)に理論光度曲線を フィットさせている。 この可視およびX線の光度曲線フィットによると、 白色矮星質量はだいたい 0.93 太陽質量で、t3 は 37 日となります。

下の図の拡大図


図25. V458 Vul 2007 の光度曲線。t3 は 37 日。比較のために、 V1974 Cyg (Nova Cygni 1992) の測光データもあわせて表示。

光度曲線フィッテイングのまとめ
上記の10個の古典新星に、今まで解析してきた、V1500 Cyg 1975、 V1668 Cyg 1978、V1974 Cyg 1992 の3つを追加して、 下の表にまとめた。このうち、V1974 Cyg の 超軟X線期が ROSAT により観測されている。それで、合計10個 (V598 Pup は除く)の 古典新星に関して、私たちが提案している予報式(経験式)を満たして いるかどうかを、図8にまとめて表示している。良くあっていると 思われる。したがって、私たちの提案する上記の予報式を使って、 超軟X線期がいつはじまり、いつ終るのか、が予想できるのでは ないかと思われる。

下の表の拡大図


表2. 光度曲線フィッテイングのまとめ。

原著論文:Hachisu, I. and Kato, M. ApJ, in press (arXiv:0912.1136) "A Prediction Formula of Supersoft X-ray Phase of Classical Novae"

6. その他いろいろ

古典新星の2次極大(secondary maximum)のメカニズムの解明:
わし座 V1493 星 (V1493 Aql 1999 No.1)、 はくちょう座 V2362 星 (V2362 Cyg 2006)、 はくちょう座 V2491 星 (V2491 Cyg 2008 No.2)
に戻る

回帰新星: へびつかい座の RS 星 (RS Ophiuchi) の y-等級観測に戻る

新星観測のすすめ (y フィルターでの観測)に戻る

トップページへ戻る(go back to Izumi Hachisu's home page)

加藤万里子のホームページへ (back to Mariko Kato's home page)


Copyright I. Hachisu 2009