古典新星の2次極大(secondary maximum)のメカニズムの解明:
わし座 V1493 星 (V1493 Aql 1999 No.1)、 はくちょう座 V2362 星 (V2362 Cyg 2006)、 はくちょう座 V2491 星 (V2491 Cyg 2008 No.2)

Engilish

東京大学総合文化研究科・教養学部宇宙地球科学

蜂巣泉


1. はじめに

古典新星の光度曲線にはいろいろなタイプがありますが、極大からだんだんと 減光していくものが多く、急に減光して増光するものはダストによると思われて きました。しかしここ数年の間に、いったん落ちてから、また急に増光する新しい タイプの古典新星が注目されはじめました。この2次極大(secondary maximum)はダスト とも違っているようで、どのようにして明るくなるのか、よくわかっていません でした。そこでこの2次極大のメカニズムを説明する論文 (ApJL, 694 巻, L103-L106 ページ, 2009年, [astro-ph] arXiv:0902.2424) を書きました。 このページは、その論文に書いた内容を日本語で解説するものです。

新星爆発とは?
新星は白色矮星とふつうの星(伴星)の連星系で起こります。伴星から水素ガスが 白色矮星の表面にふりそそぎ、積もった水素ガスがある量を超えると、突然、 水素の核爆発(核融合反応)が起こります。短い時間に大量のエネルギーが出るので、 星は突然明るくなり、新星として観測されます。このとき白色矮星の上にたまった 水素ガスは大きく膨らみ、加速されて放出されます。ガスがほとんど飛んでしまうと、 水素核燃焼も終って、星は暗くなり、もとの状態にもどります。明るくなってから 暗くなるまでは数ヵ月〜数年です。星が急に明るくなる現象は、むかしは「新星」と してひとまとめに呼ばれていましたが、いろいろな現象が見つかってきたので、 「新星」から「超新星」や「矮新星」「回帰新星」などを除いた残りを、 特に「古典新星」と名付けて、区別しています。(コカ・コーラ・クラシックみたいな もの)

古典新星の明瞭な2次極大が 観測されのは、V1493 Aql (1999年7月13日UT発見)がはじめてです。

下の図の拡大図


図1. 爆発後50日ほどのところにはっきりとした2次極大が見えています。 図中の線は私たちの新星モデルが示す理論値です。線の長さの短い方から、 1.2倍、1.15倍、1.1倍太陽質量の白色矮星の値を示しています。

どうして今まで2次極大がわからなかったの?
これまで2次極大(secondary maximum)は V1493 Aql にだけ観測されて、 他の新星では観測されませんでした。この不思議な2次極大はどのような場合に 起こり、どのような場合には起こらないのか、共通点は何か?といった条件が わからないと、理論家はなかなか手が出ません。他にも二次極大を示す天体が あらわれてきたので、ようやく理論が考えられる状況になったのです。

最近、2次極大を示す仲間の新星が2つ増えました。
はくちょう座 V2362 星(2006年4月発見)と V2491 星(2008年4月発見)です。

下の図の拡大図


図2. 爆発後250日ほどのところにはっきりとした2次極大が見えています。

下の図の拡大図


図3. 爆発後15日ほどのところに小さいが明瞭な2次極大が見えています。 図の下の方には、Swift衛星が受けた超軟X線(0.2-0.6 keV)の時間変化と私たち の理論線を書いています。3本の線は、1.32倍、1.3倍、1.27倍太陽質量の 白色矮星の値を示しています。

何が新しく分かったの?
V2491 Cyg については、爆発前にX線が受かっていました。詳しい解析の結果は まだ出ていませんが、Astronomer's Telegram (1473, 1478) (本論文は、A&Ap, 497 巻, L5-L8 ページ, 2009年) によれば、 ポーラーか中間ポーラー(磁場が強いので、伴星からのガスの流れが、 磁極から白色矮星に直接流れ込んでくる)の激変星ではないか、と言われています。 また、X線衛星 Suzaku によると、爆発後10日(2次極大の前)あたりに、 15-70 keV の超硬X線が受かっています。これは、古典新星からのものとしては、 はじめての検出です。もちろん、これ以外にも、古典新星にしばしば みられる、光学的に薄い高温プラズマからのX線(数keVのサーマル成分)も 受かっています。この 15-70 keVの超硬X線は、 2回目の観測(爆発後30日、2次極大の後)では、 受かっていません。また、立教大学の武井らの解析 (ApJL, 697, L54,2009; [astro-ph] arXiv: 0904.1693) では、超硬X線は、 巾乗則で近似できるので、ノンサーマル起源であろうといわれています。 これらから推測できることは、V2491 Cyg は非常に強い磁場を持つ、 おそらくポーラーに分類される激変星であるということです。 また、2次極大のある15日以前に、磁場起源とみられる活動から 超硬X線が放出されているが、2次極大以後はそれが消えている、 ということです。

2. V2491 Cyg の光度曲線解析

この新星の特徴:何が面白いか?
この新星は、爆発後40日ほどから、超軟X線(図では 0.2-0.6 keV)が 検出され出しました。 前に紹介した 回帰新星 RS Oph は、爆発後30日ほどから、超軟X線が検出されだしたので、この V2491 Cyg も 回帰新星ではないか、と言われました。また、減光のスピードも速いので、 白色矮星質量もチャンドラセカール限界質量(1.4倍太陽質量ほど)に近いと おもわれます。もし、回帰新星ということになれば、Ia型超新星の親星とも なれるので、一気に面白さが増えて来ます。

光度曲線の解析から何が新しく分かったの?
古典新星の光学および近赤外の光度曲線は新星風の光学的に薄いプラズマからの 自由-自由放射光(free-free emission)を計算することで良く近似できます。 蜂巣と加藤の新星風モデルで計算した光度曲線で観測データをフィット すると、重い白色矮星(1.3倍太陽質量あたり)のものでうまく合います。 可視あるいは近赤外の光度曲線と違って、X線の光度曲線は、 光球表面の黒体輻射近似から計算しています。 立教大学の武井さんたちに求めてもらった、X線衛星 Swift の 超軟X線のデータも合わせますと、白色矮星の質量と同時に、その外層の 化学組成もある程度予測できます。おそらく、水素が少なく、CNOやNeが 増加していると思われます。スペクトルを観測している方がいましたら、 ぜひ組成解析をしていただけませんか?

吹き飛ばされたガスの組成解析から分かること
新星は白色矮星表面の水素核爆発です。相手の星から降って来たガスが 白色矮星表面にたまると、薄い水素層の底で水素に火がつきます。一般的な 古典新星では、爆発とともに、積もったガスのほとんど全部が飛び散る と思われていますが、RS Oph などの回帰新星では燃えてヘリウムとなった ガスの一部が積もり、白色矮星は次第に重くなっているようです。
 スペクトル観測から、V1668 Cyg などの典型的な古典新星では、 新星の時に飛び散ったガスには炭素や酸素が(太陽組成より)多いことが わかっています。伴星は普通の星なので、降って来たガスは、太陽組成 (水素とヘリウムが多く、CやOは少ない)のはず。白色矮星の表面で 爆発が起こる時に、白色矮星の一部がいっしょに飛ばされていると考えられ ます。つまり新星爆発を何度も繰り返すと、白色矮星はしだいにけずれて、 やせ細っていきます。
 RS Oph のような回帰新星では、飛び散るガスはだいたい太陽組成 (ヘリウムがちょっと多いかも)なので、白色矮星は太っている可能性が あります。加藤・蜂巣の理論では太ります。
 もし、RS Oph の白色矮星のように質量が増えていくとすると、 白色矮星のチャンドラセカール限界質量(白色矮星の上限質量で、 1.38倍太陽質量程度)まで積もれば、自分自身を支えきれなくなって、 つぶれます。その時に、中心部の炭素の核融合反応に点火して、 星全体がいっきに爆発します。この爆発がIa型超新星であろうと 考えられています。
 もし、新星爆発で吹き飛ばされたガスの中に CNO や Ne が 多く含まれていた場合は、白色矮星が爆発のたびにやせ細っていくことになり、 残念ながら、Ia型超新星にはなれません。この意味からも、白色矮星外層 (あるいは飛び散ったガス)の組成解析が重要になっています。

3. 2次極大の起こるメカニズム

V2491 Cyg の連星がポーラーであるとすると、 強磁場(白色矮星表面で数千万ガウス)が 白色矮星と伴星を結びつけています。新星爆発が起こると、白色矮星外層が 膨張しますので、今まで連星公転と同期して回っていた磁場が、外層に ひきずられて遅く回るようになるので、微分回転となります。(外層は 角運動量保存のため、白色矮星スピン回転より遅く回転するようになり ます。ようするに、スケート選手のスピンと同じように、腕を伸ばすと回転が 遅くなる。) このため、磁場が巻き込み、強くなります。また磁力線の 再結合がおこるようになり、磁気的なエネルギーが熱エネルギーに変換 され、光度の上昇やガスの再加速に寄与すると考えられます。この磁気再結合は、 (剛体)回転のエネルギーと磁気エネルギーがほぼ同じくらいになると、 磁気張力のために、回転が剛体回転に近づくので、終息しはじめます。 ですので、「磁気エネルギー」=「剛体回転エネルギー」のところの 手前あたりが、磁気的活動の極大になるでしょう。

磁気的活動があっても、磁気圧がガス圧より小さい場合は、 効率的にガスを加速できま せんから、激しい質量放出に直接結び付きません。白色矮星の外層が 新星風(新星風は水素核融合反応の熱により加速されます)により放出 されると、次第にガス密度が下がり、ガス圧が磁気圧と同じくらいか、 小さくなってきます。そうなると、磁気的な張力がガスを加速すること が簡単にできるようになるので、ガスの再加速が効率的におこることに なります。これが起こるのが、ちょうど、白色矮星外層の密度が下がり、 光球が連星系の軌道半径よりも小さくなったあたりです。

このことを実際に示したのが、下の図です。ちょっと、ややこしいかも しれませんが、新星爆発の初期では、光球(図では線の右端の○に対応)が 大きく膨らんでいるので、軌道半径(図ではorbit と↑で表示)よりずいぶん と外側まで、水素外層が伸びています。剛体回転のエネルギー(図では rot と 表示)密度は、磁場のエネルギー(図では mag と表示)密度より大きい ところでは、剛体回転にはついて行けず、外層は遅れて回転するので、 微分回転になっていると考えられます。しかし、次第に、光球が収縮してくるので、 光球が軌道半径の内側にくるあたりで、磁場のエネルギー密度が 回転のエネルギー密度より大きくなってきます。そうなると、水素外層が 磁気張力によって、白色矮星のスピン(と連星公転と)同期して回転する ようになります。こうなると、磁気的活動は終息します。 このあたりで、ガス圧も磁気圧より小さくなっていますので、この直前では ガスは効率的に加速され、ガスの強力な放出に結び付きますので、 これが、2次極大に対応するのではないかと考えています。

下の図の拡大図


図4. 白色矮星の膨らんだ水素外層内部のいろいろな種類のエネルギー密度。

4. 2次極大のタイムスケールの違いはなぜか?

白色矮星の光球から伴星が出て来る時が2次極大
白色矮星と伴星が強磁場で結合しているので、磁力線の再結合は、白色矮星と 伴星の間で起こると考えられます。しかし、白色矮星の膨らんだ外層の奥深く で再結合が起こっても、ガス圧が磁気圧よりも大きいので、磁場はガスの加速には ほとんど寄与しません。しかし、白色矮星の水素外層の光球が ちょうど、連星軌道の内側にくるあたりで、ガス圧(ガスのエネルギー密度)と 磁気圧(磁気のエネルギー密度)が同じくらいの大きさになるので、磁力線に よるガスの加速にはちょうど都合のいい状況になります。ですので、 伴星が白色矮星の外層から見え出す時期が、2次極大に対応すると考えて よいことになります。

白色矮星の質量による違い
白色矮星外層の光球は次第に収縮してきます。これは、新星風による質量放出 があるために、膨らんだ外層の密度が減少してくるためです。この収縮の タイムスケールは、白色矮星の質量に依存しますので、いつ光球が 公転軌道内まで収縮するかは、白色矮星の質量と密接な関係にあります。 白色矮星の質量に違いによって、2次極大の時期が違ってきます。 下の表は、それを示したものです。


表1. 2次極大のタイムスケールの白色矮星質量による違い。

自由-自由放射光(free-free emission)から計算した近赤外と可視光の 光度曲線モデル(V2491 Cyg では超軟X線のデータも使用) から白色矮星質量を推定すると、V2491 Cyg で 1.3倍 太陽質量(図3)、V1493 Aql で 1.15倍太陽質量(図1)、V2362 Cyg で 0.7倍太陽質量(図2)となり、2次極大の時間をうまく説明(表1)でき ます。

原著論文:Hachisu, I. and Kato, M. ApJL, 694, L103-L106 (2009). "Optical and Supersoft X-ray Light Curve Models of Classical Nova V2491 Cygni: A New Clue to the Secondary Maximum"

5. その他いろいろ

回帰新星: へびつかい座の RS 星 (RS Ophiuchi) の y-等級観測に戻る

新星観測のすすめ (y フィルターでの観測)に戻る

トップページへ戻る(go back to Izumi Hachisu's home page)

加藤万里子のホームページへ (back to Mariko Kato's home page)


Copyright I. Hachisu 2009