回帰新星 さそり座 U 星 (U Sco) の2010年爆発

蜂巣 泉 (東京大学総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系:教養学部宇宙地球科学教室)
加藤 万里子 (慶大)



図1。 U Sco の 超軟X線期の想像図。
U Sco は軌道周期が1.23日の近接連星系です。 古典新星より、やや周期が長いので、伴星は主系列星ですが、少し進化して 半径が少しだけ(2倍程度?)ふくれた状態だと考えられます。伴星はロッシュローブを 満たしているので、白色矮星のほうへガスが落ち込み、降着円盤を形成しています。 ふだんはとても暗い のですが、爆発すると、白色矮星の表面につもったガスが大きくふくれて、明るく 輝きます。その時は伴星はガスの中に埋もれています。ガスは質量放出で高速で とびだしていくので、広がってうすくなります。それで光球の場所がしだいに 内側に移動してきます。そのうち伴星が見えてきて、降着円盤が見え、光球が 小さくなって、白色矮星の半径にちかづいてきた時期の様子がこの図です。 白色矮星の表面の光球温度が高くなると紫外線や軟X線がでるようになり、 それに照らされて、降着円盤の表面や伴星の表面が温まって、可視光を出します。 伴星に降着円盤の影ができていることに注目。

U Sco は白色矮星の質量がチャンドラセカール限界質量(約1.4倍太陽質量)に 近く、現在もその質量が増えているらしいことから、将来、チャンドラセカール 限界質量に到達したときに、中心の炭素の核融合反応に火がつき、一気に燃え あがるために、Ia型超新星爆発を起こすと思われています。

1999年爆発時の VSOLJ ニュース 012 号


1. はじめに-- ついに期待の U Sco が爆発!

2010年1月28.4385日(世界時)に B. G. Harris (New Smyrna Beach, FL, USA) によって、11年ぶりに爆発(V=8.05等)していることが発見されました。

以下は、 U Sco を観測する方に、理論的な立場から、参考になりそうな ことをまとめます。

  • 光度変化を詳しく見るには、多色測光(B, V, [y], Rc, Ic)が欠かせません。
  • 3〜4日後から連星軌道周期に関連した光度変化が見えるかもしれません。
  • そうなれば、1.23日おきに減光します。主極小のほか副極小もあります。
  • 10日後あたりから光度曲線が平坦(プラトー)になってきます。これが、 古典新星などにみられる輝線の影響なのか、それとも連続光自身の減光が遅く なり、プラトーになっているのか、を判断するには yフィルターによる観測が 欠かせません。14等と暗くなりますが、がんばって見てください。
  • 爆発後30日ごろから(つまり2月末から)平坦期が終って、急に減光します。 1999年の私たちのモデルでは、平坦期は円盤の照り返しで光っているとして います。ですので、急に暗くなるのは、円盤を照らしていた白色矮星の温度が 急に低くなる、つまり、白色矮星の表面で核反応がやむ、あるいは白色矮星 表面の冷却が進む時期に対応するので、理論的にとても重要です。 (白色矮星の質量や元素組成を決めるのに、必須な数字です)

    前回の爆発(1999年2月)の測光観測と私たちの理論光度曲線:

    下の図の拡大図 出典は ApJ (2000)528,L97. Hachisu,Kato,Kato,Matsumoto


    図2。 U Sco の 1999年爆発時のの光度曲線。青い点は京都大学の大宇陀 観測所のデータ。ピンクはそれ以外の観測データ。ともに、V等級。図の矢印で、 Sとあるのは secondary eclipse (第二極小)の時の観測、Pはprimary eclipse (第一極小)で観測されたときのもの。
    理論曲線の方は、赤い破線が、爆発した白色矮星が出す光の光度。青い点線は、 白色矮星にに照らされた円盤が光る光度。伴星も照らされていて光っているので、 それも考慮して、連星系全体からくる光度 (つまり白色矮星+円盤+伴星)を計算すると 、黒い実線になる。U Sco は連星周期 1.23 日で回転しており、図1のように軌道面が 視線方向に近いので、1.23日おきに、白色矮星が伴星に隠される。それで光度も 1.23日ごとに減少している(連星系の回転による3次元の効果をちゃんと計算しました。 すごいでしょ)。
    X線衛星 BeppoSAX が1度だけ U Sco を観測し、超軟X線を検出した(19-20日後)。 短い水平線で観測時期を示してある。オリオによれば、このデータはフラックスが少 なすぎるので、マージナル・デテクションだそうだ。今回は swift が生きているうちに 爆発してくれて本当によかった。軟X線がいつ検出されるかお楽しみ。 (私どもの予想では、新星風が やむ時、つまり図中の wind phase が終るころです)

    注意:このモデルでは光学的に薄いプラズマからのfree-free emission (自由-自由遷移放射光)の成分が入っていないので、爆発後1週間から 10日ころでは、第一極小がより深く出ています。実際は、もっと、埋まって、 浅くなっているはずです。

    前回爆発時に書いた論文では、 U Sco の質量は、図2にあるように、1.37太陽質量と、 非常に重いです。RS Oph は1.35 太陽質量くらいだと考えられるので、それより重い わけです。これはIa 型超新星爆発をする白色矮星の質量に非常に近く、Ia型超新星の 親天体の第一候補です。願わくば、U Sco の新星爆発がちゃんと終り、超軟X線も しっかり検出されて(モデル計算ができるし、論文も書ける)、その後に 連続してIa 型超新星爆発を起こしてくれると、非常に嬉しいです。

    2. U Sco の食の観測キャンペーン!

    爆発後7日後あたりから、フリッカーリングと呼ばれる、0.2等程度の 短時間(数十分)変動が受かりはじめました。伴星から白色矮星への 質量降着が復活(?)してきたようです。降着円盤が見え出したということは、 連星の食が見えてもおかしくない、ということです。(2月6日記)

    U Sco の食の観測キャンペーン! [vsolj 9907] campaign of U Sco eclipse observation このメイルの中には食(主極小)の予報があります。が、私としては、 主極小だけでなく、主極小と主極小のまん中にある、副極小も ねらい目だと思います。

    U Sco の星図(by Schaefer)

    下の図の拡大図

    3. U Sco からの硬X線が Swift衛星で 受かりはじめました (爆発後4-5日)

    爆発後4-5日後あたりから、Swift衛星がU Sco からの硬X線(3 keV 以上)を 検出したと報告 (ATel No.2419) がありました。硬X線なので、爆発したガスが 衝撃波を形成し、高温になったプラズマから放射されたX線と考えられます。 私たちの硬X線の起源に関する説は、白色矮星からの高速なウインド(風)が 伴星にぶつかった時の 衝撃波から出てくるのではないか、というものです。4-5日後には、 伴星が見え出しますので、4-5日後から検出され出したという時間的な関係は 良くあっています。(2月6日記)

    4. U Sco からの超軟X線が Swift衛星で受かりはじめました (爆発後12日)

    爆発後12日後に、Swift衛星が U Sco からの超軟X線(28+/-8 eV)を 検出したと報告 (ATel No.2430) がありました。今後、何日程度続くのか、楽しみです。 (2月12日記)

    5. その他いろいろ

    古典新星 いて座 V5583 星 (V5583 Sgr) の超軟X線期の予測 に戻る

    古典新星の理論: 光度曲線の絶対光度と超軟X線期の予測はできるか?に戻る

    古典新星の2次極大(secondary maximum)のメカニズムの解明:
    わし座 V1493 星 (V1493 Aql 1999 No.1)、 はくちょう座 V2362 星 (V2362 Cyg 2006)、 はくちょう座 V2491 星 (V2491 Cyg 2008 No.2)
    に戻る

    回帰新星: へびつかい座の RS 星 (RS Ophiuchi) の y-等級観測に戻る

    新星観測のすすめ (y フィルターでの観測)に戻る

    トップページへ戻る(go back to Izumi Hachisu's home page)

    加藤万里子のホームページへ (back to Mariko Kato's home page)


    Copyright I. Hachisu 2009