回帰新星: へびつかい座の RS 星 (RS Ophiuchi) の y-等級観測

Engilish

1. はじめに

回帰新星 RS Ophiuchi が2006年2月12日UTに爆発しました。
この星はこれまでに1898,1933,1958,1967,1985年にも爆発が観測 されおり、今回の爆発は21年ぶりです(私たちはこの爆発をずっと待っていました。 何度も爆発してくれるので、とっても便利ですし)。 このように何度も新星爆発を起こす天体を回帰新星(反復新星)といいます。 ふつうの新星(古典新星)は、爆発と爆発の間隔が数千年と長いので、人類にとって 1度しか観測されないものですが、回帰新星は10-数10年おきに爆発します。 光度曲線(明るくなってから暗くなるまでの減光の様子)は、毎回ほとんど同じです。

新星爆発とは?
新星は白色矮星とふつうの星(伴星)の連星系で起こります。伴星から水素ガスが 白色矮星の表面にふりそそぎ、積もった水素ガスがある量を超えると、突然、 水素の核爆発(核融合反応)が起こります。短い時間に大量のエネルギーが出るので、 星は突然明るくなり、新星として観測されます。このとき白色矮星の上にたまった 水素ガスは大きく膨らみ、加速されて放出されます。ガスがほとんど飛んでしまうと、 水素核燃焼も終って、星は暗くなり、もとの状態にもどります。明るくなってから 暗くなるまでは数ヵ月〜数年ですが、回帰新星はやや短く1年以内です。

回帰新星はなぜひんぱんに爆発するのか?
理論的には、白色矮星が非常に重かったり、伴星からガスがふりそそぐ率が大きい 場合には、爆発と爆発の間隔が短くなります。白色矮星の重さは太陽質量の0.4倍 から最大でも1.38倍までですが、回帰新星の白色矮星は1.35倍とか1.37倍のように 上限質量ぎりぎりです。普通の新星(古典新星)は、白色矮星の重さが太陽の 0.6倍〜1.1倍です。

へびつかい座RS星はどんな星か?
へびつかい座RS星は白色矮星と赤色巨星の連星で、軌道周期は457日です。 へびつかい座RS星の赤色巨星は、重元素量が太陽より少ない種族IIの星だという 観測もあります。これは理論を作る上でとても重要な情報です。
ちなみに蜂巣&加藤の理論モデル(短い論文: ApJL, 536, L93-L96, 2000; 長い論文: ApJ, 558, 323-350, 2001)では、白色矮星の 重さは太陽の1.35倍です。

上の図は、爆発前のへびつかい座RS星の想像図です。左が赤色巨星で、温度の 低いガスをゆっくり放出しています。そのガスの一部が、右の白色矮星に 落ち込んでいきます。まわりに降着円盤(ガスが円盤状にぐるぐる回りながら、 しだいに落ちていく)があるので、白色矮星そのものは見えません。 この埋もれている白色矮星の表面で新星爆発が起これば、白色矮星の表面に 薄く積もったガスは大きく膨らみ、伴星や降着円盤はその中に包まれて 見えなくなります。
星の質量や軌道の大きさなどは蜂巣・加藤の理論モデルに基づいているのですが、 イラストにすると、いまいちウソっぽいですねえ。

爆発後3-4日のX線(数百eV)の検出
IAUC速報(No. 8675)によれば、ガンマ線バーストの検出に活躍している Swift(スィフト)衛星のX線望遠鏡(XRT)により、約300 eV(温度約300万度に対応) の非常に強いX線が受かったようです。 このようなX線は、ガスが衝撃波加熱により、非常に高温になることで放出されると 考えられています。前回の爆発が起こってから今回の爆発までの20年の間に、 赤色巨星から冷たいガスがゆっくりと放出されています。 この冷たいガスの一部は白色矮星に捕えられ、後にその表面で核爆発を起こすの ですが、残りの大部分は連星系の周りに広がっていきます。新星爆発が起こると、 高速に飛び散っていくガスが、その周りに存在する冷たいガスにぶつかり、 衝撃波が発生します。衝撃波は白色矮星から飛び散ったガスが周りの 冷たいガスに最初にぶつかったところを基準として、 外側と内側の両方に伝わっていきます。 衝撃波が通過するとガスは数百万度に加熱され、 その加熱されたガスからX線が放出されます。 外側に向かう衝撃波が、連星系の周りに存在する冷たいガスの端まで 到達すると、もう加熱するガスがなくなるので、X線は急激に弱くなり 検出されなくなります。前回の1985年の爆発では、だいたい爆発後70日 を過ぎたあたりから、X線は急激に弱くなりはじめました。


2. 今回の爆発の観測データ

みなさま観測データをありがとうございます。清田さん、久保寺さん、 前原さん、中島さん(以上がVSOLJメンバー)と大阪教育大学(OKU)の グループにy-フィルターで観測していただきました。 その図を下につけます。

下の図の拡大図

今回の爆発は、y-等級が青(VSOLJ)と黒(OKU)の▲、緑の□(VSOLJ)と 黒の◇(OKU)が V-等級です。●が VSOLJ のIc-等級です。小さなテン「・」は、 1985年爆発時の実視等級で AAVSO からのデータです。y-等級は、 非常にバラツキの少ない、きれいな光度曲線が得られました。 この結果は、予想とはずいぶんと違いましたが、その理由も以下に 述べるように、はっきりと分かりました。 今回の特徴をまとめると、

(1) 減光の期間が、(a) 初期の速い減衰期(爆発後40日まで)、 (b)中期のプラトー(平坦)期(図では plateau と書かれている部分です。 爆発後40日から75日くらいまで)、(c)最後の減衰期 (75日から始まり、120日くらいまで)の3つに分けられます。

(2) プラトー期は今回の y-等級の観測で、はじめてはっきりした ものです。他の2つの回帰新星、U Sco (さそり座 U星)と CI Aql (わし座 CI星)、 にも同じようなプラトー期が観測されています。蜂巣泉・加藤万里子らは、 爆発した白色矮星の周りに残っている(降着)円盤が、中心の水素核燃焼して いる白色矮星に照らされて明るく輝いていることで説明できると考えています。

(3) 最後の減衰期は、白色矮星上の水素核燃焼の火が消えた時点に対応 しています。へびつかい座 RS星の連星モデル(白色矮星と赤色巨星、および 白色矮星の周りの円盤)をもとに、照り返しの効果も入れて、光度曲線を 書いたのが下の図です。この図のようなフィッティングから、白色矮星の質量が 1.35±0.01 太陽質量であることが分かりました。

下の図の拡大図

(4) y-等級とV-等級が、V1668 Cyg (はくちょう座 V1668星)の場合の ように大きく離れないのは、ネビュラー期に入っても、円盤からの 黒体輻射の連続光成分が(輝線成分に比べて)依然として大きいことに よるものだと思われます。これを使えば、円盤があるか無いかの判別が できるでしょう。古典新星の V1668 Cyg のように y-等級とV-等級が 離れていくのが、円盤が無いか、あっても小さいことに対応し、逆に RS Oph のように離れて行かないものは、円盤が比較的大きく、その 表面からの(黒体輻射の)連続光成分の寄与が大きいことを意味します。

この結果を ApJL に投稿しました。プレプリントは astro-ph/0607650 にあります。

ところで爆発の想像図が、 Astronomy Picture of the Day に載っています。

右が伴星である赤色巨星、左が白色矮星で、表面のガスが爆発して広がって いるところです。広がったガスは半透明なので、白色矮星の周囲のアクリーション ディスクや伴星からのガスの流れ(アクリーション・ストリーム)も透けて 見えています。赤色巨星の表面からもガスが出ているのが わかります。この図では赤色巨星はやや大きく描かれています。もしかしたら ロッシュローブを満たしていないのではないかという論文もあるので、そうなら 赤色巨星はもっと半径が小さいでしょう。

4. RS Ophiuchi はIa型超新星になるか?

白色矮星の質量
惑星状星雲の中心星の観測などから、一般には白色矮星の重さは、太陽質量の0.6 倍 弱い程度のものが最も多いと思われています。太陽が50億年後に白色矮星になると 重さは0.5倍ちょっとくらいになります。太陽より重い星はそれより重い白色矮星に なりますが、重い星はもともと少ないので(生まれる数が少ない)、重い白色矮星は 数が少ないです。
新星を起こす白色矮星は、0.6 から1.38までばらついています。GQ Mus(1985) や V723 Cas (1995)などのゆっくりした新星では、0.6-0.7 太陽質量と軽めですが、V1668 Cyg (1978) や V1974 Cyg (1992)などの速い新星では 0.9-1.1 太陽質量、回帰新星は、 ほとんどが1.3 太陽質量より重いです。RS Oph は 1.33 太陽質量程度だと思っています。

新星爆発を繰りかえすと、白色矮星の質量は重くなるか?
新星は白色矮星表面の水素核爆発です。相手の星から降って来たガスが 白色矮星表面にたまると、薄い水素層の底で水素に火がつきます。一般的な 古典新星では、爆発とともに、積もったガスのほとんど全部が飛び散る と思われていますが、回帰新星では燃えてヘリウムとなったガスの一部が 積もり、白色矮星は次第に重くなっているようです。
スペクトル観測から、V1668 Cyg などの新星では、新星の時に飛び散ったガスには 炭素や酸素が(太陽組成より)多いことがわかっています。伴星は普通の星なので、降って来た ガスは、太陽組成(水素とヘリウムが多く、CやOは少ない)のはす。白色矮星の表面で 爆発が起こる時に、白色矮星の一部がいっしょに飛ばされていると考えられます。つまり 新星爆発を何度も繰り返すと、白色矮星はしだいにけずれて、やせ細っていきます (あ、白色 矮星の場合は、軽くなると半径が大きくなります)。
RS Oph のような回帰新星では、飛び散るガスはだいたい太陽組成(ヘリウムがちょっと多 いかも)なので、白色矮星は太っている可能性があります。加藤・蜂巣の理論では太ります。

白色矮星が重くなるとどうなるか?

もし、RS Oph の白色矮星質量が、上図のフィッティングのように 太陽質量の1.33倍と非常に重いとします。白色矮星のチャンドラセカール限界質量 (白色矮星の上限質量)は、1.38倍太陽質量程度なので、 RS Oph の白色矮星は限界ぎりぎりの質量です。もう少し積もれば、自分自身を 支えきれなくなって、つぶれます。その時に、中心部の炭素の 核融合反応に点火して、星全体がいっきに爆発します。そして Ia型超新星になると考えられています。
このように回帰新星は Ia 型超新星を起こす可能性が大きいので、できれば私が 生きているうちにどれかの回帰新星が爆発してくれないかなあ!そうすれば、蜂巣・加藤の 理論が正しいと証明できるのに!と切に思っています (運を天にまかせるとは、このことですね)。

Ia型超新星への道

他の回帰新星は?

5. 軟X線の検出

RS Oph は何回も爆発している有名な天体だけあって、これまでに電波、赤外線、 可視光、紫外線、X線までいろいろな波長で観測されています。今回も爆発後 3日目にスウィフト衛星でX線が検出されました。これは新星爆発で飛びちったガス が連星の周囲にあったガスと衝突することにより、衝撃波で熱せられたガスから X線が出たと考えられます。

スウィフト衛星はガンマ線バーストをすみやかに検出するために打ち上げられた 衛星ですが、突発的な天体も見張っていて、RS Ophも頻繁に観測してスペクトルも 取りました。その他、チャンドラ衛星とXMM-Newton衛星もたまーに観測しました。
スウィフト衛星の観測の結果から、爆発後90日目くらいで軟X線の強度が落ちた ことがわかりました。

以下作成中

新星爆発の後期には、ガスが飛び散らなくなるので、高温の白色矮星表面から 出る軟X線が検出されるはずです(もし星間吸収が多いと、途中で軟X線が吸収さ れるので、心配)。そこで私たちの理論に基づいて、軟X線の強度を予測しまし た(Astro-ph/0602563)。論文を超特急で1週間で書いたのは始めてで、忙し かったー(さっそく受理されました:私どもの新記録です)。 観測してくれそうなX線天文衛星は、

図の赤い点は前回(1985年)の観測データ(AAVSOより)、今回の観測データは、 緑の*(VSOLJ)と青い□(IAUC)です。軟X線が予測されるのは実線の部分です。 太い線は swift 衛星に搭載されている検出器で観測した場合の強度(めもりは右) です。(前の図はXMM-Newton 衛星用の図だったのに、何でswift 用に置き換えてしまったのかって? それは論文のレフェリーが多分swift 関係者で、図を swift 用にせよと言ってきたからでーす)

爆発から4月までは、ガスの温度が低く、新星風も吹くので軟X線は観測されない はず。軟X線があらわれる時期(ターンオン タイム)と弱くなる時期(ターンオフ タイム)が理論にとって、大変重要なのです。

この図では白色矮星の重さを1.33太陽質量としています。重さが違えば、 ターンオン タイム とターンオフ タイムも違ってきます。質量を特定するため に、ぜひ4月、5月、6月の3回、観測してほしいです。 (まるで天気予報のような天文学・・・)

下の図の拡大図

6. その他いろいろ

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